たっぷりと手繰り寄せたるその天幕(カーテン)
留めたタッセル、しゅるりとといて、
とろりと微(かす)かに手に当たる
どこか面映ゆいその胸の、
高揚
誰が知るものか。
静かなる夜天は今日も歌う。
夜天天幕(やてんカーテン)
白く時に眩しいほどの光が段々と落ち着きを取り戻す頃
いつものあの音が聞こえてくる。
しゅるり しゅるり
微(かす)かに、けれど確かに。
*
*
少年はいつもは気に留めもしなかったその音の出所が気になり、
自転車のハンドルを左に切った。
目線の先には梢に寄生木(ヤドリギ)の印を持った木がある。
いつも友人と待ち合わせすをする場所だ。
学校帰りに集合し、3番月見通りにある鉱物店に立ち寄った後、
広場のカフェでヌガーとミントスカッシュを飲み、その後別方向の家へと帰ったはずだった。
「どうして、」
「そんなの、お前と同じ理由に決まってる」
トンと打ち鳴らす腕の下で、地面に十字が伸びた。
「音、どんどん増えている気がする」
空と森の狭間には、もう日が沈みかけている。
キラリと瞬間何かが目に飛び込んできた。
「何、」
「見ろ!あそこだ」
それは微(かす)かに手の形に見える光の細い筋。
白とも、緑とも、青とも云えるような不思議な色の透けるようなベールをサラリサラリと指先で撫でている。
「何だろうあれ…」
「手…みたいに見えるけど」
「見てっあそこ!」
二人の視線の先で、新しい手のような光の筋がそっとタッセルを解くように確かに動いた。
しゅるり しゅるり
「あぁ、そうか」
「あの音は…」
あちらこちらで音がする。
しゅるり しゅるり サラサラサラリ
音がするたびに、オレンジ色がベールを被り、その色が紫、紺色へと変わっていく。
しゅるり しゅるり サラサラサラリ ri ri ri ri
一時、音とその光景に時を止めていた二人の手に、そろりと布が滑る。
瞬間、駆け抜けた高揚に、目がパチリと覚めた。
「夜の始まりが、こんなに素敵なショーだったなんてね」
「僕ら、いいことを知ったねぇ」
二人顔を見合わせ、トンと腕を鳴らすと、月がくすりと笑った気がした。
end
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DOLL:傘/LUTS KIDDELF CHERRY
窓/LUTS KIDDELF HODOO
もの/BF PF Taro
切手/BF PF Sleeping minimay
アクセサリー&衣装:月の扉